地獄のような今年の三寒四温に苛まれつつ今日もオーディオショップへ足を運ぶ。
オーディオルームのフローリングは何が良いんだろうなんてふんわりした悩みから、3月31日の最終契約へ向けた見積もりがはじき出された。
1週間ほど遅れているが、この手の業界はどこも増税前の駆け込み需要でカツカツらしくスケジュールはかなりタイトだ。
頭がふわふわしているような陽気と肌寒さを感じながらいつも通りF社へ向かう。

結果から言うと、予算は軽くオーバーしているし、許容していたオーバーフローのそのさらに上を行っていた。このように書くと、現実的な問題から家の購入は困難だと思われるかも知れないがなんとなるはずなので落ち着いてきいて欲しい。
家のコストが予算をオーバーしてしまった場合に見直すべきところというのが建築業界には存在している。また逆に絶対にコストカットしてはいけない所というのも同時に存在している。
家の地盤改良や基礎、構造体、その構造体を守る外壁や屋根などは、妥協すると家の寿命が大きく縮むのでまずそこの予算を削ることはあり得ない。
予算がオーバーしてしまったら見直すべき所は、まず水回りの設備だ。キッチンやユニットバスは10年や20年でリフォームになることが多い上に高級品を入れたところで余り意味をなさない。さらに、暖房設備、壁紙や床材などの内装も無駄にコストをかけがちなところだ。
他にも、部屋を細かく区切らないとか、サッシのレベルを落とすとかコストカット出来るところは多い。

しかしながら、事前にしっかりと話し合って本やネットで十分に情報を収集していた我が家では、外壁や屋根は当たり前にガルバリウムであるし、壁紙も通常のビニールクロス、床材なら突き板で見積もっている。
サッシを見たらYKKの樹脂とアルミのハイブリッド窓を採用したし玄関扉では20万もする電子施錠などの無駄機能を省いた。
水回りではキッチンやトイレなどは高く割引率が悪いTOTOを避けてコスパの高いリクシル製品を入れたし出来ることはやった。

しかし、この家やはりオーディオルームが入っているのがどうやってもコストが落ちないのだ。オーディオマニアの間ではやれ天井高が4.0m欲しいだの広さは最低でも30畳は欲しいだの、深夜帯でも爆音が出せるS防音にしたいだの床を強化したいだのコストのかかることばかりであるけれど、
”最低限のオーディオ部屋”を基本に、防音は最低クラスで天井高は屋根を工夫することで3.0mを実現し、広さは1Fのリビングダイニングよりも広くして、エアボリュームで音質を良くして細かなオーディオチューニングは行わないようにした。

それでも、オーディオルームという性質上、一軒の家に大きなリビングが二つそして家自体の効率を良くするために総二階にしたためにオーディオルームを大きくすればするほど家全体の容積も大きくなってコストが嵩むかたちとなった。
オーディオルームを小さくすれば良いじゃんという声が聞こえてきそうではあるが、自分はこのオーディオルームに365日ほぼ24時間軟禁されるかのように籠もることになる。狭い部屋は最初からお断りだった。
さらに最低限の防音と言ってもやはり、オーディオルームだけはサッシはグレードを上げるか二重にするかしないとけないし換気扇や室内ドアももちろん防音使用にしなければならない。
2Fにあるので1Fへあまり音が伝わらないように床にもまた防音材を入れるしお隣の部屋が寝室になるのでその壁にも防音材が入る。
そうしているうちに、家のパーツ一つ一つの値段はそこまで高くないにもかかわらず、全体ではやけに割高感のある家の見積もりが出てきた訳だ。

やはり、オーディオルームというのはそれはそれは贅沢な部屋であることが今更になって実感として沸いてきた。
その上で、なんだかオーディオルームという存在自体が本当に必要なのか疑問に思えてきた。

家を建てることで手元にある現金がゴッソリなくなることに対してなにか感情が揺らいできたのだ。
大きな現金というのは可能性の塊である。もちろん家を建てオーディオルームを作るというのはその可能性の一つであることには間違いないだろう。

しかしここに来て、家を買うべきなのか、オーディオルームが付いた家を作るべきなのか考え出してしまった。
購入前のちょっとした気の迷いと言えばそれで終わるかも知れない。
しかし、自分はまだ社会で経験すべき事やるべきことがあまりにも沢山あるのではないか。良い家を手に入れたその先にある人生経験とはいったいなんなのかが見えてこなくなってきた。
やはりできるだけ若いうちに大学へ行くというのは人生の中でも大きな目標でもあるし資格や免許を取るなど細々としたお金や人生の時間の配分など考え出したら止まらないし夜も眠れない。

家という人生での巨大な買い物がはたして自分にとってどれほどまでにプラスになってくれるのか、はたまたマイナスになってしまうのか…?ひどく心配になってきてしまったのだ。

初心に戻って、オーディオとは娯楽の延長線上にあるだけのなにかなのだろうか?
ハイエンドオーディオ、ましてや専用ルームなどお金持ちの道楽に過ぎないのだろうか?

家を新しくすれば、室温も今よりずっと安定して室内も静かになって体調は以前よりも整うはずだ。そのときの自分に何が出来るのだろうか?
家を建てるとは、自分と向き合い将来を考え、家と同時に人生を設計しているようだ。
ようやくできあがってきた家の図面をよそ目に、自分の将来設計はまだ白紙のままだ。
行く末の分からない豪華客船が今港を離れようとしている。

試聴室の端にそっと置かれたAMATIを横目に、家の設計は続く。

 

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