3週間前、フレンチドロップにYES NOコインなんてモノが400円で商品棚に追加された。一枚400円で用途はパッと浮かばないけれどマジシャンならなんとなく使えそうだと注文ついでに1枚2枚買ってしまいそうなちょっとしおもちゃだ。
しかし待って欲しい、このコインAmazonを探してみると一枚150円ほどで売られている。どうやらこのコイン中国製のようで、Amazonに中華業者が出品しているようだ。

■マジシャンYoutuberの登場

2018年はマジシャンにとって激動の年だったかも知れない。それまで一個人の自己満足に過ぎなかった種明かしが、Youtuberマジシャンによってちゃんとしたレクチャー、マジックを学ぶための新しいプラットフォームとなった。最も人気名チャンネルで登録者数は現在20万人に迫っている。
これをよしとしないマジシャン達もまた多数いるようであるけれど、これは、それまで海外やプロマジシャン同士でしか手に入らなかったマジックの種を、本という媒体で幅居広い人が見られるようにしたあの高木 重朗と本質は変わらないように思う。
言ってしまえば、人気Youtuberマジシャンは現代の高木重朗である。
それまでのメディアが、本やVHS、DVD、ダウンロード配信と移ってきたように、ただ最も人が集まる場所YouTubeへと場所を変えただけである。

ネットの手軽さと、拡散性の良さはマジックの種にとっては悲劇的な事かも知れない。しかし、それは種だけで無く、マジックという文化すらも危険にさらしている事は誰も気にしていないのが今のマジック界だと思う。
2000年代初期、TVでは毎日毎週のようにプロマジシャンが多くの番組に出演し季節の変わり目には毎度のように2時間番組が組まれていた。
そこでもまた種明かしが問題だの、マジックはTVで見る物ではないだのマジシャン達は不満を募らせていた。
しかしそのTVでのマジックのやり過ぎも、Youtubeでの種明かしマジシャンの登場ですら、新たなマジック愛好家を増やしたことは言うまでもない。

その一方で、不思議さマジックに対するレジスタンス的存在としてカーディストリーの文化が近年飛躍してきたように思う。
自分自身ツインバックが流行らせたFlourishまではやっていたけれどカーディスト文化には追いつけなかった。これが年なのか性格なのかは分からないが、新しい文化であることは間違いない。
マジックの種や隠してある不思議を見せるのではなく、簡単には真似できない動きの面白さ、多様なトランプやカードを模したものを使ったパフォーマンスは、現代の種によって成立するマジックに対するアンチテーゼのように感じる。

スマートフォンが普及して10年以上が経った2019年、音楽はCDやDLではなくストリーミングで聴かれるようになり、アーティストは録音された媒体よりもライブによるパフォーマンスによる収益へとその営業形態を変えている。
マジックもまたその時期が来ているようで、Youtubeによるマジックでもカーディストでも、解説のほとんどがネット上にあり無料にて手に入るようになっている。DVDを買うよりも手軽でわかりやすいマジックの解説がネットで手に入る為に、マジックショップでDVDを買うのはマジックにど嵌まりしたオタクだけになるだろう。

■新しい文化とトランプブーム

マジックショップの形態は変わりつつある。近年現れたマジックショップを覗くと、どうもマジック屋というよりトランプ屋と言った方が良いレベルの店が多い。実際デック専門店と看板を掲げているところもある。
カーディスト文化の登場と高級デックブームの到来である。
これまで難しいとされていた、個人単位でのデック制作がクラウドファンディングにて成功したのを皮切りに、日本人マジック愛好家やカーディストリーたちはこぞってオリジナルのトランプを制作して売り始めた。
様々なトランプが日夜発売される中、多くのトランプは限定生産であり、どんなものでも在庫がなくなると差はあるもののある程度のプレミアが付く。
またこのトランプブームを後押ししたのは、USPC社のKY製騒動によるトランプへの関心の向上とマジックの種の飽和があると思う。
マニアの多くはKY製バイスクルの質に満足しなかったし、USPC社自身がガフカードの製造を今後辞めると宣言した影響は大きい。
マジックショップを覗くと、トランプの売り上げが店を支えているような実態が見えてくる。それはゴールドスタンダードだったり台湾製のNOCだったり様々であるけれど、高額化してブームとなったトランプ収集は2018年にマジックショップを延命させたといっても過言ではないかも知れない。

というものも、マジックのネタ・バリエーション事態がもうすでに飽和状態にある。新しく発売される売りネタやDVDのほとんどが、以前の改案だったり、かなり無理のある動画専用マジックだったりと長年マジックをやっている人ならもうすでに売りネタを買うモチベーションはないと思う。
加えて、マジックという芸にもまた、クラシックパームやフォールスシャッフルのような基礎技法がそのほとんどのマジックを支えている。そういうどのマジシャンでも通ってきたような基本技法を覚えるプラットフォームは去年よりずっと前にYoutubeに移っていた。
また面倒なギミックや仕込み、わかりにくい現象、難しすぎる種などを除いてしまうと普段使えるマジックのネタというのはやはりクラシックマジックや原案やすこしの改案、ちょっとしたギミックの追加などのマジックが主体となってくる。
それらのマジック愛好家やプロマジシャン達がペットトリックとするマジックはもうすでにネタ切れしており同時にYoutuberが解説済なのである。
そう良いネタというのはギミックもネタも現象もシンプルで覚えやすい、故に解説しやすく、その解説で成立している。

■売る物がなくなったマジックショップ

マジックショップが売るべきものとはなんだろうか?
そう、基本用具だ。トランプやスレッドやサムチップといったマジックを行うのに必要な最低限の道具だ。
しかしこれもまた危機的状況が近づいている。一番最初に紹介したYESNOコインのようにそれらの誰もが買う必要があるマジック用具はAmazonで格安で売っている。もっと言うと、中華のネットショッピングモールのアリババやアリエクスプレスといったところで中国で生産し中国人が格安で販売している。
中華の進歩は恐ろしく、10年前までは不良品や詐欺としか思えなかったのが今ではAmazonを見ると中華商品で埋め尽くされている。
中国という国の都合上、あらゆる商品がコピーされそれまでの十分の一の価格で販売されている。本音を言えば中華のコピーマジック商品はまだ使えるレベルまで達している商品は少ないが、いまの中国の成長スピードを鑑みると実用に達するのにそう時間がかかるようには思えない。

子供から大人まで初心者から上級者まで楽しめるオリジナルの手品用具と行ったらテンヨー商品があるけれどこれもまたマジックショップよりもAmazonの方が遙かに安い。しかもこれもまた中国に当たり前にコピーされて100円ショップだったりで売っているのが現実だ。

頼みの高級オリジナルトランプブームも、そのデザインパターンや個々の保存容量そして価格設定の限界に達しているようで、どうにも新しいデックの伸びは悪くなったように感じる。

もはやマジックショップが売るモノはない。
これからは、オリジナルの優秀な手順やハズレのない基本道具の提供を細々と行って行くのみだと思う。
どんな優秀なトリックも手順も中華にコピーされYoutuberに解説されている昨今、DVDや本を売る時代は終わってしまったと思う。
これもまた、音楽業界と同じように、商品を売るのではなくフレンチドロップのようにマジックバーなどを併用して体験を売る時代に切り替えていく事が大事だと思う。
あらゆる情報が無料で公開される現代、少なくとも、輸入した商品のみを売るだけのようなマジックショップは数年以内に閉店に追い込まれるだろう。

高木重朗が発表したカードマジック事典から約30年。
マジックの学び方が変わり、マジックの買い方が変わり、マジシャンの在り方が変わり……新しいマジックの世界がもうすでにはじまっている。

 

 

■おまけ

イエスノーコインは、Amazonで注文すると中国から直接2週間ほどで届いた。
2枚で272円。一体こいつの原価はいくらなのか不思議だ。
マジックショップなら2日で届くコインが2週間待たないと来ないというのがまだ日本のお店の存在理由があるのだけど、今後さらに短縮してきたらどうだろうか。

AliExpress.comの 1 ピース YES または NO 手紙記念コイン花装飾品

アリエクスプレスでは一枚1.32ドルだ。

他にも一昨年話題になった”ビットコイン”を探すとAmazonでは一枚80円が最安だった。フレンチドロップでは一枚800円で売られている。一体80円でどうやって利益を出しているのかとても不思議だ。
在庫処分で捨て値で売っている可能性もあるけれど、モルガンのコピーコインなども恐ろしいほどに安い。これ以外にもAmazonには謎のコピーマジック商品やジョークグッズが沢山あるので暇なときに探すとおもしろいと思う。

 

おわり。