本格的な冬の到来を前に、いつもより晴れ間の多い11月。11月4日に最後のチェックを行い翌日から解体工事が始まることとなった。
庭の木々が色鮮やかに紅葉し、この家に最後の別れを告げているかのような美しい庭とその家の姿を目に焼き付けた。
新潟の11月は毎年荒れる。雪下ろしの雨という冷たい霙や風が吹き荒れ例年なら綺麗に紅葉した葉っぱがあっという間に吹き飛ばされる。木枯らしと言うより新潟の場合は積雪の始まりというイメージだ。

そんな中11月12日F社での6回目の打合せを行った。
朝起きると異様にかぜっぽく店へ行く前に体温を測ったら37.4度あった。10月に一度休んでしまっているし今日は間取りの煮詰め作業休むわけに行かない。
前回大まかな間取りが作られそこから煮詰めていく作業をするのだけど、まずは次の家でも使う予定のソファーやタンスと言った家具の大きさを全て計ってメールで知らせておいた。
お店へ行くといつも通り準備がなされており迎えてくれるのだけど、
Iさん「何か変わったの気づきましたか?」
みかさ「ん?なんでしょう(当たりを見渡す)なにか変わったかな…」
Iさん「ちょっと店が明るくなった気がしません???」
みかさ「オーシャンウェイ!」
どうやら店頭で巨壁のように立ちふさがっていたオーシャンウェイのスピーカーが3年かかってようやく売れたらしい。店内の見晴らしが良くなって外から日差しが試聴室にまで入るようになっていた。
しかしあの巨大スピーカー誰が買ったのだろう…?

約束の時間に5分ほど遅れてきてしまったのだけど、社長はどうやらまだ準備が間に合っておらず図面を刷っていた。その間、F社向かいのパン屋の話なんかをしつつ和やかに新しい図面がくるのを待っていた。
社長曰く、来年はうちともう一件の2件の新築があるらしい。うちの図面は1Fだけすこし弄ってあって2Fはまだ途中なので今日は1Fだけやりましょうとのこと。事前にメールしておいた家具の大きさ一覧を見ながらそれぞれどこへ置いてどう活用するのか確認していった。
あちらの家から持ってきた白いソファーがリビングへ行ったり現在使っているソファーとストレスレスチェアをリビングからオーディオルームへ移動させたり。
家の大きさはそんなに小さいわけではないのに思いの外、家具が入らないことに気がついた。

現在住んでいる注文住宅の家の反省点を踏まえての作業はなかなか楽しくあたしい家にただただ希望が募るばかりであった。
店からの帰り体温を測ると37.6度まで熱が上がっていた。


取り壊し作業の様子を少し記録することにしよう。

7月の庭。ここの家主が植えたらしいハナミズキが綺麗に咲いていた

公園のような広い庭に堆く積まれる廃材中はどうなっているのか。ハナミズキはもう切り倒されたようだ。

一面大理石の広いリビングが印象的だった。

部屋の中に小型のバックフォーがいた。

 

大型のL型キッチン。まだ使えそうな程キレイだ

台所だった部分は跡形もなく内装が撤去されて何もない空間に。それにしてもこんなにもひろかったとは

開放的な階段と作業スース。奥には和室があった。

壁が全て取り払われて仏壇があった和室の丸窓までまっすぐ見える。

軽量鉄筋の家の内部が見えてきた。むき出しになった金属のフレーム

公民館か病院にでも寄贈しようかと思っていた絵。

ここだけがそのままの姿で残っていたがそれが逆にさびしさを引き立てた

 

2F奥の寝室
卓球できるくらいに広い。

閑散とした部屋の様子。
間柱の間にはぎっしりとグラスウールの断熱材が入っていたという。

見ることが出来なかったこの家の傾斜屋根の裏側。
どうやらここは飾りで付いているだけらしい。

2Fの作業スペース

となりにあったウォークインクローゼットも無くなってえらく広い
鏡があった跡がなんとも寂しい。

早く取り壊したいな。そんな風に思っていた時期もあった。
しかしこうして1年ほど家の中を片付けて家の図面をずっと眺めリフォームを考え続け、この家と向き合ってきた1年間。
贅沢に土地を使い、1Fの全面大理石を張ったちょっとした豪邸とでも言うべきこの家にとうとうお別れのときが来たと実感した。

最後に家の写真を撮っているとこれから次の人が入りに来るかなと思って、まだ取り壊すには早すぎるように思えた。明日から取り壊しというのに、これからも今までもこの家がここにあり続けているような気がしてならなかった。
3日に初めて見たその家の空っぽになった姿を写真に収めながらまだ十分に使える家だなと感じた。
解体屋の作業は思っていた3倍は手際が良く丁寧で1週間で瞬く間に内装の9割が撤去された。内心まってまだ壊さないでと言いたくなるほどにこの家が取り壊されるのがどうにも哀しく寂しかった。
どうせなら夏に庭で仲間を呼んでバーベキューでも楽しんでおくべきだったかも知れない。そんな夢ももう叶わない。

内装がほぼ取り壊されて外の壁とむき出しの天井だけになった家をみると、広い、なにより鉄筋が思っていたよりも頼もしい。そんな姿を見ているとこの家をリフォームして住んでやるれるのではないかと思った。しかしまた図面を見るとそれはどうやっても叶うことがない願いのようだ。

「この家はこのまま取り壊すのが一番だよ。」ある人は言う。
「この家オーダーメイドのスーツみたいだね。主がいなくなったら住める人は誰もいない。」
建物としてそのまま売るにも庭が広すぎるし建物が大きすぎるそして使い勝手が悪るすぎ、だれもここを家として住むには適さない。
この家を建てた主人専用の家だったことは間違いないのだ。

しかしこの夏、片付けついでに別荘のように使っていると、思いの外心地よく気に入ってしまったのだ。
綺麗な庭と、デザイン性が高すぎるこの家に。

 

解体工事の様子を見に行くと同時に異変に気がついたのはその夜。
庭にいた鶴がいない…3日の日に庭からテラスへ運んで水で洗い流してそのまま置いておいた鶴の銅像がなくなっていた。

4日の夕方にはあった。解体業者が6日に現地入りするともう無かったという。
どうやら誰かに盗まれたらしい。新居の庭でちょっと使おうかと思っていただけにすこし残念だ。
あとで楽天を探していると新品が結構な値段で売っていた。そんなに高かったのかこの鶴!!!

なんにしてももう鶴も家も帰ってはこない。
しかしここに新しい家が建ち新しい暮らしが始まる。そう思うとまた前へ進める気がする。

つづく

思い出が消えないうちに

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