週一度、大方水曜日の昼下がりに現場へ行って、進捗状況を確認しつつ写真を撮り動画を撮り30分ほど滞在してそのまま次の用事を足しに行く。
家づくりの工程は多く、それに参加する業者の数は30を超え人数にすると100人以上になる。

先週の水曜日。いつも通り現場へ行くと建設現場の前にはバンが多く止まっている。
騒がしくモノを切ったり取り付けたりの音が響いていた。
一昨日から調子が悪く、下痢状態で食欲がなかった今日は下痢止めと吐き気止めをのんでよろよろしながらいつも通りタイムラプスカメラの電池とSDカードを交換する。
余り代わり映えしない家の外観をさくっと一眼レフカメラで撮っていく。中へ入ると、キッチンの配管が終わっていたようで、排水や給水、電気の管が綺麗に並んでいる。この頃のシステムキッチンはかなり緻密に設計してあるらしく、配管が昔よりもずっと面倒になっているらしい。

システムキッチンの配管は緻密に決められている

今日は配管工事が始まっていたのかと思いつつトイレの方を覗くと以前から関本社長から説明があったとおり壁掛けになった小便器の配管を通すために土台の木が少し削られていた。写真を撮りながら順調に作業は進んでいるようだなと思いながら作業している二人組へ目線を移すとなにか、すこし怒ったみたいにこちらへ迫ってくる男が一人。

 

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小便器の排水を通すように土台の木を少し削ってある。

 

突然起きたこと

自分は指を指しながら、あれがトイレの干渉箇所だねと父へ話していると、なぜだか配管工らしき男かこちらへ向かって意味不明なことを言い始めた。

???「トイレは壁かにしなけりゃこんなところ削る必要なかったんだよ。下に排水すれば良いのに壁かけするから」
わたし「はいそうですね。でもそれは事前に関本社長から説明があった通りです。」

続けざまに、男はなにかスイッチが入ったかのように声を荒げてこちらへ勝手に物言いを始める。
???「トイレもキッチンも位置はここでいいんか?あとで変更されたらたまったもんじゃないからこれ以上変更しないでくれ、こっちは狭いなか下潜ってやってるんだ。
もっと早く決めてくれたらこっちだってこんな狭いところもぐるひつようなかったんだからなんでこんなところに潜らないといけないんだ」

わたし「いいえ。それは私たちは関本社長の指示通りに一つ一つ確実に決めていっています。なにかあるなら関本社長もしくは本間社長へ直接言ってください(あれ?なんだこの人?)」

???「外の水道はどうすんだよ、まだ決まってないのか、また俺はこの下を潜らないといけないのか?ぜんぶ床板ハツらせるからな。全部ハツらせる。また潜るなんてやってらないよ。外の水道はどうなってるの?」

わたし「いえ、ですから、私は関本社長の指示通り動いているだけなのでここでは答えられません。(具合悪いからもう勘弁してくれ)」

ここで謎の女性が出てくる。ちょっと困ったようにこちらへまたなにか確認してくる。

女性「関本社長ですか?」
わたし「いいえ。違いますよ(建築現場ってこんなのなの?)」

???「キッチンの位置はアレで良いのか?また変更なんて (略」罵声が響く。

大工さん達は玄関先でコカコーラを飲みながらお昼の休憩を取っている。
もう一人の配管工らしき人はなにかやりにくそうに黙々と作業をしていた。
全てをここに書くことはできないのだけど、とにかくあり得ない人が現場にいた。

しばらく、意味不明なやり取りがされ現場を出る時間をとっくに過ぎて、何が起きているのか分からないままただただ不快感が募っていく。
具合が悪いしこの後のこともあるからさっと写真撮ってすぐ出るつもりが、意味不明な時間を変な人のために使ってしまった。

工務店も設計のF社も大慌て

その後、F社が休みだったので工務店へ直接電話をかけて起きたことを説明した。
しばらくしてからF社から状況説明のメールが届いた。

工事現場では、全ての作業員は縦の構造のもと、棟梁を軸に行動しているという。そもそも、その棟梁を通さずに施主へいきなり工事のあれこれを聴くことは全くもってあり得ないという。またその時ちょうど現場の棟梁のI氏コンビニへ買い出し中で、その下にいる大工さん達は棟梁の了解為しに施主の方へ動くことができず、ただただ言い争っているような様子を覗うことしかできなかったという。
あとで、現場の大工さんへ話を伺ったところ、口調も激しく、現場ではあり得ないことが起きており”あの人”はもう首だなというのが現場の総意だったらしい。しかし現場に棟梁が不在でおかしな事が起きてしまって、棟梁のI氏もそのあとすこしブルーになってしまった。

工事現場は完全縦社会であり、下の人はかならず上の指示を仰がなければ勝手な行動は許されない。そんな建築現場以外でも当たり前の会社としての常識がない人がどうしてうちの現場にいるのか甚だ疑問だ。
そもそも、態度がどうしようも無く初対面の他人に接する話し方や言葉ではなかったと思うし、会社内の上司であっても決して許されるような内容ではないと思う。”あの人”はただただ自分の仕事の不満をわたしへこれでもかと、ぶつけてきたのだ。

F社とA設備からの回答

何でこんな事が起きたのか?
設備を担当している会社のA設備からの回答はこうだ。
現在、建築ラッシュにより現場の職人が不足しており、当日は派遣社員により施工が行われた。また書類選考などはしているものの人として問題があるかどうかはこちらとしては分かりかねる問題であって私どもも初めての出来事であって大変困惑している。

いやいや困惑しているのはA設備だけではない。F社の関本社長も工務店の本間社長もこれまでにない異常な事態に酷く落胆して衝撃を受けていた。
これまで解体工事からいろいろと言葉が足りずすれ違いは起きてはいたけれど、誰しもが良い物を作りたいという強い思いの中働いて尽くしているし、
現場の大工さん達もまた一番良い物を作るのだと日々一生懸命に働いてくれている。
それがたった一人の頭のおかしい人がいたが為に、混乱が起きてしまったことが余りにも残念でたまらない。

しばらく前にTwitterからバイトテロなんて言葉が出てきたのだけど、社会の闇を見たような気分だ。たった一日うちの現場へ参加しただけの人が、それまでの信頼やチームワークを大きく揺るがすような態度と発言はまさしく合ってはいけない。そもそも仕事としてではなく人として甚だおかしいのだ。

ちょっとした謝罪では済まされないことが起きてしまった現場で、工務店もF社もなんとか対応してくれている中、家に帰って自分はずっと行き場のない怒りと悔しさにただただ泣き続けていた。新居のことを考えるとふと上がってくるみたいな罵声とあの真っ赤な顔を思い出してはただただ悲しくて辛くて泣いていた。
ただでさえ、人生に余力のない自分が今なんとかやっとのことで家を建てているのだ。くたくたに疲れた身体が悲鳴を上げているようでもあった。

ここのところ毎週のように整体へお世話になっているのだけど、整体の先生いわく、本当に身体が硬くなって内蔵の動きも悪くなってこれじゃ苦しいだろうねと、ここ最近ではもっとも強い力で前身揉まれた。
少しからだが楽になると、また身体に力が戻ってきたみたいに涙が出てきた。

F社でのいつもの話会い

そして事件から初めてのF社での話会い。かなり疲れた表情の自分を見て関本社長が神妙な面持ちで大丈夫ですかと言う。
とても辛いですと言うと社長もまた悲しそうに事件のことを話し始める。私どもも辛いんです。
設備会社はできれば変えてしまいと思いつつも、F社もこのA設備と長く付き合いがあるし社長宅もトイレの調子が悪く修理して貰ったばかり。社員は本当に信頼できる人たちですと。
派遣社員がやってしまったことにA設備も事の重大さをとても真摯に受け取っておりしっかりとお詫びはしたいと表明しているとF社で説明される。
工務店の本間社長はA設備に対しては内装の一部のお金を全額持つことでこの件を収めようと提案してくれていた。

また、新築の建設にはトラブルは付きものだ。これを超えて良い家を完成させましょうと社長が励ますけれど、もうすぐ自宅になるあの場所で全く初対面の他人にガナられた悔しさと悲しみはずっと忘れないと思う。
今年の朱鷺メッセでもまたメーカーのおじさんにイチャモンを付けられてしつこく説教されたばかりだけに心理的なダメージは余りにも大きい。

結局、自分が弱いことに心を揺さぶられる

なんだか、無理して外に出てやっとやっと活動しているのか余りにもばかばかしくなるような事件だ。腹痛や吐き気に耐えながら外出してやっと写真撮ってきてそれだけでも辛いのに、そこに追い打ちをかけるように襲撃されるような事があると、家から出るのがまたひとつ億劫になるし恐怖は増す。
なにより、自宅になるはずの場所でそんなことが起きてしまうと、落ち着いて新しい家に順応するのがとても難しくなるのではないかと思う。ただでさえ、新しい環境、新しいにおい、引っ越しという労働を超えないといけない。
そのなかで、余計な記憶がのしかかってくるのはとても不憫だ。
A設備はしっかりとしたお詫びはしたいと申し出ているが、この件が本当に解決するのは思っているよりも時間がかかるかも知れない。
現状では、普通に現場へ赴くのがとても緊張を強いられるし現場へ着いたら変な人がいないかびくびくと身体が反応してしまう。分かっていても強く警戒してしまう。

家作りは修羅の道

普通の人にとって結構なストレスになる新築の家作りではあるけれど、全ての行程を無傷で行うのは全くもって無理はなしだ。はじめにも書いたとおり建設現場には何百人もの人が関わってくる。そのなかには手抜き工事だったり隠蔽だったり争い事だったりなにかは起きてしまうと思う。それが家の規模が大きくなればなるほどその確立は上がいくはずだ。
良い家の影には誰かの血の滲むような葛藤と努力と妥協が隠れている。
100%は存在しない世界だから、何かあってもなんとか話を合わせて先へ進むことを考えたい。工務店の中には話を聞かずに全てを放ってしまうようなところもあると聞くし、実際に、外壁も貼られず足場がかかったまま何年も放置されているような建設現場も存在する。資金が足りなくなったとか施主が亡くなったとか裁判になったとか事情は様々だろうけれど、結果的に家を諦める施主もいるだろう。

 なにかトラブルがあったら、今何をやったら将来幸せになれるのか、施主だけではない全体の幸福を考えて一つ一つ丁寧に考えていきたい。

 そういう所も含めて家作りはとにかく体力勝負である。

うちは、工務店もF社のスタッフさんたちも良識ある人たちであるいみ助かったのかもしれない。家作りは紆余曲折ありつつやっとやっとできていく。

つづく

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