年が明けて1月も下旬、今年は去年よりも活動的に頑張るぞということで、滞っていたオーディオルームの作業のもろもろをFormusicへお願いメールをするのでした。そのときちょうど、JEFFROLANDのMODEL725の状態の良い中古が出ていたのでせっかくならと思い、販売価格と店頭で試聴できるか問い合わせたところ、オーディオルームでの作業のついでに725も持って行って自宅で聴けるよとのお返事をいただき、そのまま持ってきてもらうのでした。 曰く、725は軽いので持って行けるとのこと。一台約25kgですが、モノパワーの中では小型で軽いというのです。 ハイエンド製品の中ではJEFFROLANDは小型でスマートです。
※この記事は7千字あります。後に空気録音と動画での感想Youtubeリンクを追加します。
※MODEL 725 をデジタルアンプとしていますが、正しくはAB級動作です。
AB級パワーアンプPASS X260.5をデジタルアンプにしたい理由
2020年に、JEFFROLANDのMODEL201という小型モノラルパワーアンプをお試しで買ってみました。現在メインでGIYAを鳴らしているPASSとは勝負にもならず1年足らずでさっさと売り払ってしまいました。そのとき、Youtubeのコメント欄で、ジェフは625以上のモデルを使うべきで201では話にならないとアドバイスをいただき、その後押しもあり725をちゃんと聞き、候補に入れるのも良さそうだと感じました。
大前提として現在の音には、プレイヤー~スピーカーから部屋まで現在のシステムでとりあえずの不満はほぼありません。パワーアンプはPASSのX260.5でまったく音には不満を感じません。なぜジェフが必要かといえば、PASSのアンプが熱すぎて夏使いたくないからです。正確には6月~10月上旬くらいまではGIYAをトライゴンのDWARFでとりあえず鳴らして、アッコルドをメインで使っています。PASSの発熱量はすさまじく、初夏に入る前からエアコンが必要になります。物量投入された真空管や大型A級パワーアンプを使う多くのハイエンダーは、GW辺りからエアコンを入れ始めるといいます。しかし、昨今の世界情勢を考えても、電気を浪費しまくるA級や真空管もメインで使う時代は終わったのかなと感じます。真空管に関してはロシア管が入手できなくなりましたし、Luxmanはいくつかの真空管アンプのラインナップを廃止しました。その上で今後は、ご時世を踏まえて純A級パワーアンプを全面に売り出すことを辞めるとも宣言しています。Luxmanといえば純A級パワーアンプが一つの売りだと思っていましたし、ステレオパワーアンプのM600Aを使っていたときは、電源を入れると爆熱でアンプの香りがして、放熱孔の板がゆがみ…その発熱具合にびっくりしましたものです。昨今のエネルギー不足も半導体不足も未だに解消されていませんし、世界は大きな曲がり角にいるのかなと感じます。
そんなわけで、音は大変に気に入っているPASSのアンプはもうさすがに辞めた方がいいのではと感じるのでした。X260.5はPASSの中ではまだミドルクラスですし、世界には最上位モデルをマルチで使っている方もいますが、アンプと空調の電気代を聞くと月に5万10万とかかるときいてぶったまげます。うちはまだPASSの電気代はたったの5~8千円くらいです。しかしながら、夏の期間GIYAがお休みになったりPASSが使われずに場所だけ取っているのは非常にもったいないと感じます。それなら年中使えるD級アンプでずっと使い続けた方がいいでしょう。加えて、オーディオルームでしっかり音楽を聴く時間というのは意外にも短いです。音を出していない間も電気を食い熱を放出し続けていますからさらにもったいです。まあ晩秋からは普通に暖房として使ってはいますがw。加えて、PASSはしっかり温まるまで時間がかかります。とりあえずの暖気は2時間程度、本領発揮するには24時間~1週間程度温め続ける必要があります。ハイエンドオーディオ製品の多くが電源にれっぱなしを推奨し、マニアもそれを好んで行っています。このPASSもまた電源入れっぱなしが最も音がいいのです。今ではやっていませんが、以前はワンシーズン電源入れっぱなしにしていた頃もありました。
JEFFROLAND MODEL 725を借りる
オーディオルームの清掃作業や入れ替え作業などの合間にさくっとパワーアンプが運び込まれました。あまりにあっさりと持ってくるので、これが400万円以上のアンプだということを忘れてしまいます。メール一通で持って行くよ!と軽く返事いただき、そして、契約書類もなにもなく普通に機材をセッティングして置いて帰っていきます。信頼関係があってなせることではありますが、それが普通に行われていることに、未だにびっくりです。オーディオを全く知らない人が聴いたらもっとびっくりです。
PASSの電源を落としてさくさくっと725をGIYAにつなげます。GIYAのスピーカーケーブルは1mしかないのでモノラルパワーアンプしか使えません。適当なスピーカーケーブルに変えればいい話ですが、GIYAのターミナルはSPの裏の奥深くにあるのでケーブル交換するだけで1時間以上かかります。そのうちいい感じの出物があったらValhallaの2m以上のケーブルにアップグレードはしたいなとひっそり思っています。音質面では不満がありませんが、GIYAでステレオパワーアンプが使えないのは地味に不便なことが多いので、ケーブル類は余裕を持ってちょい長めがいいですね。
JEFFROLAND MODEL 725を聴く
作業を進めながら、725の音を聴きます。太陽インターナショナルのAVALONとJEFFROLANDと言えば、なんとなく鬼太鼓座を爆音で鳴らしているイメージがあったので、鬼太鼓座のハイレゾをかけます。(少し前までアナログとSHM-SACDしかありませんでしたが、ハイレゾ配信しています。長岡鉄男推奨音源です!)あからさまにウーハーの駆動が、様変わりしているのがわかりました。かなり深いところまでくっきりと低域が出て、とにかくスピードが速く切キレが非常に良いです。G3がG2にG1になったみたいに低域の質が目に見えて改善されています。PASSでも十分に低域の駆動力はあると感じていましたが、725はそのさらに上です。
その後、チェックデスクを淡々とかけていきますが、音の粒子がきめ細かく、くすみやよどみを感じさせない音の秀麗さは目を見張ります。これまで聴いたことないような定位でフォログラフィックな立体的でシャープな音像感は、聴いているというよりは見ていると言えましょう。またバックグランドが非常に静かです。快晴に恵まれた秋の高い空を眺めているかのような清涼感と穏やかさ。気になったのは、音の背景が真っ黒ではないことです。これはプリアンプのLuxmanが足を引っ張っている感じがしましたが、黒よりも白に近い感覚でした。それでも背景に揺らぎやノイズ感がなく非常にスッキリとしています。スイスのCH Precisionなんかは背景が真の黒で、音像が引き立ちより色鮮やかな印象です。
優秀録音の定番スティーリーダン「aja」を聴くと、音の美しさに惚れ惚れします。楽器の音一つ一つが正確でありつつもキラキラと輝いて見えます。優秀女性ボーカルの定番Jheena Lodwickを聴いてみると、低域のわだかまりがとれてボーカルが素晴らしく良く浮き立つことに気づきます。You Raise Me Upの大サビあたりで低域のもり上がりがありますが、量感はしっかりと増しつつもボーカルを引き立ててくれます。これは空気録音では感じることができると思います。
最近お気に入りで良く聴いている、エソテリックのSACD、シャルル・デュトワ指揮のサンサーンス、オルガン付きを聴きますが、この録音は教会で録音されており一般的なホールよりも残響が長く音が非常に混濁しやすいです。それが725では、Poco adagioの重みのある荘厳な響きの美しさはもちろん、Molto allegroのFFで奏でられるパイプオルガンの地響きも美しく再現します。音量を上げればあげるほどに、教会の迫力と管弦楽器の繊細さを両立しながら再現していく様子は非常に面白く気持ちいいです。
空気録音のその① 1/3
空気録音のその② 2/3
JEFFROLAND MODEL 725でアニソンを聴く
一通りのチェック曲を聴いていきますが、音圧高めのアニソンや録音の悪いアニソンを聴いていきます。優秀録音がより素晴らしく鳴るのはハイエンド機器では当たり前のことですが、少しばかり音が良くないタイプのアニソンではどうでしょう?定番のハルヒやこの頃流行のAdoの「新時代」やハニーワークスの「可愛くてごめん」や「男の子の目的は何?」、結束バンドを聴きます。多くが、低域が若干薄く、ボーカルすこし奥まっていることが多く、うまく鳴らすには、低域でしっかりと支え、ハイ上がりのシャリシャリ感を押さえながら鳴らすという、優秀録音とは違う鳴らし方を要求されます。
725での試聴では、音量を一回り以上あげることができました。これだけでも全体の画面構成、サウンドステージが非常にダイナミックかつ色鮮やかになります。ハイ上がり音源を鳴らすと、どうしてもすぐに高域が突き刺ってしまうことが大きな壁となります。725で最も驚いたのがこの部分で、音量を上げても高域が空中で破綻せず非常にささくれにくいです。かなりきつめな高域でさえもしっかりと形を保ったまま鳴らし切れている感じを受けました。そのために音像感をそのままに迫力や鮮やかさを一段上へとと昇格させてくれます。優秀録音でも感じた、ボーカルや楽器の美しさや正確さは、ここでも十分に感じられ、より繊細でありつつも苦しくならない。725の駆動力、表現力に感服です。圧倒的なD級の駆動力によって全てのユニットに十分な余裕があり、悪録音でさえも歪みを感じさせません。アニソンを鳴らすのに必要な、分解能力の限界をさらに底上げしてくれました。
優秀録音の美しさは他のアンプでも感じられそうですが、アニソンでの鳴ってる感の次元をあげてくれる雰囲気は、GIYAだけでなく800SeriesやMAGICOでも同じように感じるように思います。これだけくっきりはっきりと音像が出てくることはそうそうないと思います。
JEFFROLAND MODEL 725&GIYAの音
非常に高いレベルで現代ハイエンドを感じさせる静寂性と解像感、音像のリアリティでPASSとはレベルが違いました。しかしレベルは違えど、また音の方向性もずいぶんと違うと感じます。ジェフの音は201でもそうでしたが、寒色に寄っており、かつ静かに穏やかに鳴らします。PASSのようにダイナミックで熱気に満ちた躍動感はありません。この辺りは完全に好みですが、725の場合、寒色でありつつも冷たさよりもフォログラフィックなリアリティによる実在感で人の温かみを感じる雰囲気があり、弱点を圧倒的な駆動力による再現性で補っているように感じました。D級アンプも技術の粋でここまで高められることを証明しているかのようです。
ざっくりまとめると、GIYAとJEFFROLANDの相性は非常に良いと言えるでしょう。GIYA G3のウーハーはたったの15cmしかありませんがVIVID AUDIOのテクノロジーにより想像を超える重低域の再生が可能です。しかしその恩恵を受けるにはそれ相応のパワーアンプが必要になります。もちろんスピーカーの基本性能が高いのでプリメインアンプでもギリギリ鳴らせるのがG3ですが、逆にパワーアンプの性能をいくらでも引き出せるくらいにGIYAのポテンシャルは高いです。また現代ハイエンドのS/N高さや音像のリアリティは、アンプのプレイヤーの性能にどこまでも追随します。G3の場合は少しばかり能率が低いため、やはりD級の高出力パワーアンプは非常に有利だと感じます。以前、アインシュタインの真空管ハイブリッドパワーアンプでGIYA G2S2を聴いたとき、なんだかだいぶ味気ないなと感じました。
自宅視聴と今後の方向性
自宅試聴ははやり非常にわかりやすいです。長い時間聞けますし、なにより自室のシステムで聴けますので間違いがありません。店頭では、お隣で音が鳴っていたり、かけられる曲に心理的な制限があったりと、試聴環境はあまりよろしくありません。この頃ではオーディオ機器のサブスクやレンタル業がようやく出てきました。なんだかんだで、オーディオ機器はトータルでの出音が全てですので、お店でアクセアリーやアンプだけを確認する作業は非常に難しいです。ですので、基本的にはオーディオ機材は買って試聴が最短ルートであり、実はコスパがいいと思っています。買う=試聴です。そんなので、サブスクだったりレンタルで、誰でもいつでも気軽に試聴できる環境が整ったら、個々のオーディオの再生レベルや水準は飛躍的に向上すると考えられます。また、オーディオ機器は基本的に高額な物ばかりですが、高額故にちゃんと試聴したいという思いと、そんな高額機器ですら、買ってしまうと1週間や1ヶ月程度で音になれてしまって、当初の感動はどこへやらなんてことは少なくありません。とりあえず借りて音を楽しむというスタイルは非常に理にかなっていると感じます。
オーディオ業界はこの頃の値上げが激しすぎますが、機材の価格以上にオーディオを楽しむことが、困難になってきています。アンプだけで400万円、これだけのお金があったら、オーディオではなく他のことに投資した方がずっと効果が高いと思ってしまいます。しかしながら、ハイエンドオーディオの音の体験は、それはそれで代えがたい面白いものでもあります。今回借りた725ですが、中古での販売のため販売価格を問い合わせたところ、思ったより安いと感じました。PASSを下取りに出して、爆熱から解放され、1年を通して楽しめるとなると実はコスパがいいのでは?とも感じました。それでも、実際に聞いてみると725のクオリティの高さは十分に感じつつも、A級パワーアンプと比べると、どうしても演奏に緊張感が強く出てしまいます。この緊張感の強さが少しばかり肌に合わなかったかなと感じました。加えて、多少のオーバースペック感も同時に感じます。これは最近のハイエンドオーディオ全てに言えることですが、度が過ぎているものが多く見られます。スピーカーにしてもケーブルですら、確かにその低域の再生能力だったりS/Nの高さだったりは、これまでの製品群ではあり得ないレベルの高水準を達成しています。しかしながら日常的に聴く音楽にそれほどまでのスペックは必要なのか疑問に感じるところではあります。この話は社会情勢だったり、それぞれの価値観だったり、懐具合などが複雑に反映される難しいシチュエーションだと思います。まあ基本的にそんなにスペックも値段も高いオーディオの存在が、かなりのマニアでさえも持て余してしまうのではないかと感じます。これは飽くなき探求、そしてロマンの世界なので、究極まで突き詰めた圧倒的世界への憧れみたいなものも、十分にわかってはいるつもりですが、ことばにできないこのもやもや感は結構多くの人が抱えている問題ではないでしょうか?
とりあえずは、JEFFROLANDの音というのが今まで以上にわかったかなと思います。2018年の朱鷺メッセでの試聴会で、AVALON、ジェフ、dCSの組み合わせで聴いてはいましたが、ジェフの音はいまいち捉えられていなかった感じました。それでもあのとき鳴らした「いちごコンプリート」は憖っかな音ではなくまさしく”コンプリート-究極体-”みたいな雰囲気でした。
そこそこ長く持ち続けたA級パワーアンプへの拘りは、やはり完全な間違いではないと感じた試聴でした。それでもパワーアンプは、Luxmanに回帰するとか、デビアレとかエアなど全く違うところへ行くか、究極の完成形はダールジールのあたりではないか?と考えに耽るのでした。まあPASSのままというのが現実的ではあります。PASSのスペックは、近年のハイエンド製品の中ではすこし見劣りする部分が多々あるような感じですが、出音に関してはスペックを超えた、耳と感性で作った一つの芸術作品のような気がしています。ですので世界中のハイエンダーの中に、ファーストワットだったり、PASSの熱狂的な愛好家が一定数存在していて、あの爆熱のなか音楽を楽しむのです。そんなPASSの仲間として、チェロやクレル、古いマークレビンソン、マキントッシュなどもその存在自体に同じ雰囲気を感じます。数値にできない感情的な音であり、スペックでは越えられない個性という壁があるように思います。
まとめ
非常に散らかったレポートになってしまいましたが、JEFFROLAND MODEL725 を5泊6日レンタルしました。なんとレンタル代無料!なんというサービスの良さ!これは、もはやなにか買わないといけないなーという静かな圧力を感じてしまうのでした。
この頃では、あまりにもひきこもり生活になってしまっていて、このご時世で試聴会が開催されていないどころか、店頭にすら遊びに行ってもおらず、自宅でも新しいオーディオを買うこともなくなってしまって、オーディオを楽しむ喜びを完全に忘れてしまっていたところでした。そんななかこんなに素晴らしい機会に恵まれ、数日ではありますが久々に”オーディオの音を楽しむ”ことができました。実のところ、ショップの中古は回転が速く、自宅試聴の予約を入れる前に捌けてしまうことが多です。タイミングが合わないと、お金払ってでももってきてもらうのは難しいことが多いです。メーカーの試聴機は取り寄せればいつでも聴ける状態ではありますが、現行機がどれもあまりにも高くなりすぎました。
この1週間、家に帰るとJEFFROLANDがある!部屋で音楽を聴くとJEFFROLAND!などとくだらない喜びにニヨニヨしながら、725を試聴していました。なんとなく、オーディオ機器もボーリング場みたいな家ではなく外の施設で楽しむ趣味にシフトしていってもいいのかなと感じるこの頃です。だって高すぎるもん。
おわり