去年の東京インターナショナルでVIVIDAUDIOは、新しいGIYA G1 Spiritを登場させた。
派手なマットイエローにすこし図体が膨らんだ相変わらずの奇妙な形に誰もが圧倒された。

しかしながらそれより気になったのはツイーターのデフューザーだ。
十文字のシンプルなものからなにやらとても奇妙なメッシュ状へと変更されていた。

その1年前にVIVID AUDIOは 10周年記念スピーカーB1 DECODEを出しており
表だった特徴としてはやはりツイーターの変更だった。
VIVID AUDIOの処女作B1がリファインされて限定発売。B1 Decadeとなって登場(StereoSound online)

登場から約10年が経過しているGIYAシリーズもついにモデルチェンジの頃合いかと考えた。
G1 Spiritの後にはG2 G3 …とSpiritモデルが出るのだろうと思っていた矢先…
GIYA S2 シリーズが発表され、それはさらにG1 Spirit以上に変更点はあまりなく
最も音に影響するだろう変更がやはりそのツイーターだった。

今年の4月の試聴会でF社のIさんとG2 GIYAS2を聴きながら、
現行GIYAもツイーターをスコッと抜いて新しい奴を入れればそれでもう十分なんじゃないですかね…
なんて冗談を言っていたのだが、それが今年の7月になるとステラからGIYAのS2アップデートのお知らせが全GIYAユーザーへと行き渡った。

VIVIDAUDIOのユニットは基本的にボルト一本だけで止まっている。
故に、前方のツイーターとミッドバスユニットは六角レンチ一本で簡単に外すことができるのだ。

ステラによると、G1からG4まで、一律35万円(※税別、出張費、工賃抜)にて
ツイーターのS2アップグレードが出来るという。
G1GIYAは最終価格700万円台のスピーカーではあるが、たったの35万円でS2へアップデートできるという。
応募期間は7月20日までと超短期間の応募だったにもかかわらずほぼすべてのGIYAオーナーがS2アップデートを決めたという。
ステラから便りが来て〆切目際にF社へアップデートの予約を入れた。
もうその時点でステラの残注が50件以上あり、VividAudio工場では部品が足りずに生産が全く追いつかない状態になっていた。

そんなことで、9月9日にようやくうちの分のG3GIYAのための新ツイーターが店へ入荷した。
F社では店頭にある展示機G1とG4のアップデートは終わったが、
2ヶ月経った今でもまだ3件残注があるという。

9月某日ようやく取り替え作業ができたのでその様子を簡単にレポートしたい。

■発注まで

こんなにおいしい話、ステラからお知らせが来た当日に予約を入れてしまえばよかったのだけど、話を聞くといくつか大きな壁があった。

7月某日
F社Iさん曰く
いち早く店頭のG1とG4のツイーターを変えたらしいのだけど、
G1の工事は、ただツイーターを外して戻すだけという簡単な話ではないらしく
店じまいをしてから深夜までGIYAと格闘したらしい。
その一因として、GIYAの構造上の特徴がある。
GIYAのツイーターはあのOriginalNautilusを進化させたものではあるが
基本的な構造はほとんど変わっておらず、一本の棒がスピーカーユニットの後ろから伸びてエンクロージャーのおしりへ留められている。
その棒がG1では長く本体を抱きかかえるようにして手前のユニットの角度を調整しながら背面のネジ穴めがけて手の感覚を元に調整しないといけないらしい。

加えて、G1では初期モデルでは内部配線がユニットに半田付けされており
現行モデルのようにぱちっとコネクターを繋ぐだけではないのだ。

ついでにGIYAが初期モデルなのか後期モデルなのかは、ツイーターのリード線を見ると分かるという。
初期モデルはこのリード線が細く直角に入っていたためにしばしば断線事故が起きており
その影響で平べったい丈夫な導線に変更された。
加えて、内部の線のルートが変わり現行GIYAではまずツイーターが断線することはないという。

G3GIYAのD50、ユニット内部へ入っているリード線が平べったくなっている。

それでもGIYAのツイーターを吹っ飛ばしてしまうオーナーは存在すると言うがそれは凄まじい爆音主義者だというからしかたない。

そんなので3~5日かけてG3GIYAをいったん店頭へ引きあげて交換してから戻すという。
いろいろとスケジュールが詰まっていた8月にそんな大がかりなことは出来ないと
しくしく考え、ギリギリまで発注をせずにいた。
GIYAをまた店頭へ引きあげるとなると一大事だ。
それが、自宅で3時間程度で完成するという知らせを聞いてようやくGOサインを出した。

ついでに、交換作業はステラの営業を呼んで作業して貰うかF社のIさんに頼むか選べた。
ここは迷わずF社のIさんににお願いした。

■交換作業

14時頃ベニヤを荒く切った木箱と段ボールを抱えてIさんが来た。
事前の予告によると、大方3時間程で交換出来るとのことだった。

いきますか、と少し気合いを入れて、GIYAのD26ツイーターを外し始めるIさん。
もう手慣れた様子で外していくが、G3は今回が初めてだという。

クルンとしたアブソーバーチューブの後ろに並んだボルトを六角レンチで外す。
後ろからすこし押してやるとにゅるっとツイーターが出てくる。
サザエの浜焼きを食うようにそーっと引き抜く。

初めて見るGIYAの姿に少し興奮しながら見ると
内部配線が、なぜか輪ゴムで留められている。
なぜ留められているのか、しかもなぜ劣化しやすい輪ゴムなのか疑問は絶えない。

今回は手前のツイーターユニットと後ろに付いている消音管も交換対象だ。

新型と旧型の消音管を見比べる。
パイプはアルミからステンレスに変更された様子で
手前の黒いプラスチックパーツもなにやら精度が上がってざらざらした表面からつるつるとしたきれいな表面になっていた。
おそらくではあるが鋳型が変更されたのか製作方法が変わったのかかなり変わっている。

R側に使っていたD26のパイプを持ってみるとなにやらカラカラと音がした。
パイプ内部には吸音材が入っているのだがなにやら金属片のようなものが入っているようだ。
いままでこの音も聴いていたのか!!!と言うと
いや気にしないでくださいとIさん。

消音管とユニットを繋ぐリング状のネジは使い回しだ。
あまり精度が出ていないようで回すとキュルキュルと嫌な音がする。
加えて鉄で出来ているらしく超強力なネオジム磁石に引きつけられて
容易くネジを締めさせては貰えない。

曰く、このマグネットが超強力らしく、ツイーターの前に精密ドライバーを持っていくと吸い込まれるという。
それで交換時に、一個店頭GIYAのツイーターを潰してしまったという。

新型ツイーターがついにGIYAを装着される。
コードを接続する前に管を内部へ差し込まないと知恵の輪状態になる。
また新型のデフューザーは上下、水平が分かりづらい。

そっと押し込む。G1ではこの作業に1時間以上かかるという。
というのも、G3GIYAでは管が外へ出ていて見ての通り筒のガイドが付いている。
だからG3は自宅で作業が可能になったらしい。

しかしここで一つ問題が発生した。
こうなったら六角レンチでボルトを締めるだけなのだがこのボルトがいつまでも回る。
そう手前側は引っかかりが一切なくユニットはシリコン製のガスケットをパッキンのようにしてほぼ浮いている状態なのだ。

慣れたようにステラのサービスへ電話をかけるIさん。
ステラ曰く、B&Wのツイーターと同じでゆるゆる、押したときにゴムのように弾力がある状態でボルトを締めるのがGIYAの基本らしい。
そう、GIYAのユニットはほぼ固定されておらず、振動を逃がしているのだ。

また問題が発生した。ツイーターの留める位置が分からない。
GIYAのエンクロージャーに平面はなくすべてが曲面で出来ているために
ユニットの縁がすこし出っ張る形になる。それがどの程度出せば良いのか奥へ押しやれば良いのか分からないのだ。
しかしこれは逆chの元々のツイーターを見て同じように留めた。


背面のボルト。G1G2 にも存在するがG3G4はクルンとしたアブソーバーチューブの中央付近に二つボルトがついている。

同じようにD50のツイーターの作業をする。

同じように内部配線が輪ゴムで止められていた。
着々と作業が進んでいくと思った矢先、なぜかD50がキッチリと嵌まらない。
よく見ると元々あったD50にはシリコンリングのガスケットが2重に使われていた。
GIYAの個体差なのだろうか微調整がなされているようである。
ガスケットを再利用するときいてアルコール綿でガスケットを拭いてやるとプチッと切れた。
このシリコンリングどうやら一本の紐でリング状に接着剤でくっつけられているだけだった。


新型ツイーターの裏側。ぎっちりとネオジム磁石が入っている。
見た目には何が変わったのか分からない。

写真を取り忘れてしまったが、MIDRANGEの消音管はTWEETERよりも少し大きく
穴を覗くと、毛糸の紐がふわっと詰められていた。
意外なことにこんな高級スピーカーでもその辺の毛糸が使われているのである。


ツイーターからのびている線をよく見るとこのケーブルヴァンデンハルである。
今更GIYAの内部配線がヴァンデンハルであることを知った。
しかしながらヴァンデンハルを使っているGIYAオーナーは居る気配がない。
一度試してみたらおもしろいかなと思う。

ここで悲しいお知らせなのだが、交換したツイーター消音管はVIVIDAUDIOへ送り返すのがアップデートの条件となっている。
どうやらこの35万円という価格設定は、交換した部品をすべて送り返すことによって実現したようだ。
もしツイーターが欲しいとなるととてつもない額をステラから請求されることなるのだろう。

自作GIYAなどを狙っていた人は少なからず居るらしいのだが残念なことに古いツイーターを流用することは許されないようだ。
工場でリサイクルされるのか新たな研究材料となるのか不明ではあるが、里帰りすることには違いない。

そうこうしているうちにG3GIYA S2アップデートが完了した。
自宅に到着してからちょうど1時間かからないくらいですべての作業が終わった。
これを受けてIさん、G1G2やめて、G3とG4すすめようと意気込む。

いつの日か言っていた、S2シリーズ買わなくても
ツイーターだけスコッと抜いて新しいの入れれば良い。
本当に、そんな作業だったかもしれない。

D26 S2 TWEETER
D50 S MID RANGE
保護ネットをかぶせるとごちゃごちちゃ感は否めない
ツイーターだけ新しいというのもすこし違和感があるが、
全体を見てもかなり変わったと感じる
新ユニットではあるがよく見るとすこし汚れている。

 

遠目ではアルミのシルバーからディフューザーのグレーが目立つ

 

■音だし

おおー1時間で作業終わってしまいましたね!というと
いやいやちゃんと音出してからが本番だよとIさん。

さくっとジェニファーウォーンズをかける。
少しずつボリュームを上げていくと間違いなく新しい音でなっているのが分かる。
一個でもなっていないと凄まじく籠もった音がするという。
というのもこのGIYAはD50がほとんどの音を担当しているのだ。

Iさん「かなり変わっちゃいましたけどいいんですかwww」
みかさ「すごいじゃなですか、S2の音ですよ。GIYAってまだ余力あったんですね」

レビューを書く必要性も感じないほどに音が違う。
もともとぬるっとした音ではあったけれどより一層滑らかで正確無比な音像が展開されている。

Iさん「もともとGIYAはこういう音だったかも知れないですね~www」
というのもうちのGIYAは全体的にダメージが入っていて
エンクロージャーの傷やMIDBASSユニットのエッジの白濁など気になる点はいくつもあった。
その中で、TWEETERのエッジがかなり劣化していたのだ。

エッジに亀裂のような白い線が入っている。
エッジの周りは接着剤がはみ出ているのか汚い
リード線がエッジに干渉している。

 

エッジに何か付いたのか、接着剤なのか白濁している。

 

■GIYAというスピーカーVIVIDAUDIOというメーカー

GIYAというスピーカーは南アフリカで作っている影響か
はたまたこの曲線で形作られたエンクロージャー故なのか
どこもかしこも手作り感が強いスピーカーだ。
スピーカーユニット外して中を覗くと見た目の滑らかな外観とは裏腹に荒々しい内面が覗ける。

もっときれいに作ってはくれないかと思うがおそらくそれをやったら今の価格の2倍3倍はいってしまうだろう。

しかしながら出てくる音は本物のそれであるから非常にユニークなスピーカーだと言いたい。
それなりに時間が経ってから製作されたG3GIYAでさえもこれほどまでに造りが荒いのだから
初期のG1GIYAは凄まじいのだろう。
実際に、ダイナへ現れたG1初号機は写真を通して見ても明らかにぼろかった。

3Dプリント技術が熟成し、GIYAのエンクロージャーが簡単に成形できるようになる未来はそう遠くはないと思うけれど、VIVIDAUDIOというアイデンティティが消えてしまいそうだ。
ハイエンドオーディオの名にふさわしい唯一無二のスピーカーを作っていることだけは確かだと思う。

■S2ヴァージョンアップの音質

アップグレードの名に恥じない素晴らしい進化を感じた。
エンクロージャ-の形状はこれ以上ない究極だと宣言しているが
スピーカーユニットはまだ進化の余地が十分にあったようである。
想像を超えて滑らかスムーズな中高域は圧巻だ。
そのほとんどがコンピュータのシミュレーションによる正確なデュフェーザーによる影響だと思うのだけど、
ユニット本体もその後ろの消音管も製作精度がかなり上がっている様子で
左右の位相がきれいに整った感じがした。
故に音像が以前にも増してリアルなのだ。

交換から3日、まだ鳴らし始めてから12時間程度。
エージングをもう少しすすめながらゆっくりとS2になったG3に酔いしれたい。

S2ヴァージョンアップはこんな破格で提供してくれたステラ様には頭が上がらない思いだ。

残念ながらバージョンアップの募集はもう終わってしまったけれど
GIYA S2シリーズはあまり値上げされることなく販売されているし
なにより、S2アップデートされた展示品がオーディオショップにまだ沢山存在している。
今まさにGIYAを買う絶好のチャンスだと思う。

800D3シリーズを検討している人、興味がある方はぜひ愛聴盤を持参してオーディオショップでGIYAを聴いていただきたい。

今GIYAが買い時です。

おわり。

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