2月4日から6日までの3日間F社からトリノフのアメジストを貸して頂いた。

アメジストと言えば紫水晶で、2月の誕生石だ。
運命か偶然か去年の秋辺りから借りようとしていたアメジストは試聴機の空きがなく今月ようやくステラから数日試聴機をレンタルすることが出来た。

トリノフのST2であるならばF社にデモ機があり新品を開封してでもすぐにでも自宅視聴が可能だったのだけど、
プリアンプ一体型、iPadやPCでのプリ操作が可能ということに惹かれてST2ではなくわざわざアメジストを借りた。

プリアンプ一体型に惹かれたわけはデジタル操作だけでなく、イコライザーがプリとパワーの間もしくはDACとプリの間に入るのがどうにも心地よくないと感じたからだ。
接点が増える上に箱も増えて見た目にシンプルではなく、どうにもアナログデジタルの変換を繰り返すことに抵抗があった。
アメジストにしてしまえばPCから光デジタルで直接アメジストのDACへ入れることが出来る。
これは非常にシンプルで無駄がないと考えた。
さらにはiPadやiPhoneはてまてPCから操作ができるというのだからデジタル万歳といった感じである。

もちろん、トリノフのオプティマイザー機能で音は専用ルームの如くさらによくなるというのだからアメジストに惹かれるだけ惹かれてしまったのだ。

先日802SDでのST2試聴でオーディオショップでさえあれだけ音がよく鳴ったのだから
普通の部屋である家に持ってきたらどれだけいい音になるか楽しみでならなかった。

■セッティング

ステラの試聴機。次の週には使うらしく最大でも4日しか借りられない。

ST2と違いWi-Fi機能が内蔵されている。
後ろから見たらまさにデスクトップPCのそれだ。重量もプリアンプとしては軽すぎるくらいに軽い。
筐体も自作PCのケースよりも薄いようでかなりぺらぺらな造り。

奥に見えるXLR端子はマイク入力用のケーブルだ。

弱点とも言うべきか特徴と言うべきか、奥行きがかなりある。
Q4Dの棚板一杯の広さだ。
ST2に無理矢理プリ機能を詰め込んだ感じは否めない。

セッティングを始める。
アメジストのXLR入力端子4つが測定モードの時だけマイク入力になる。
通常はDACやプレイヤーからの端子を差し込む。
トリノフのマイクは左右上下前後と4本有るので1から4までの数字が付けられたXLR端子を順序よく説明書通り差し込む形だ。

マイクスタンドに備え付けた専用マイク(13万円税別)でリスニングポイントのパーソナルチェアの前で計測する。
計測する高さや角度はトリノフのメニュー画面を進めていくと丁寧に案内され
指示通り勧めていくだけで誰でも簡単に計測が可能だ。
このあと自分でも2回計測を行ってみたけれど驚くほど簡単で楽しい。

ただ計測してから結果が出るまでちょっとした演算をしているようで3分から5分ほど時間がかかる。
計測結果が出るまで固唾を呑んで待つ。

トリノフ、アメジストのメイン操作画面だ。
ここで入力の切り替えボリューム、オプティマイザー、プリセットの切り替えなどが出来る。

数字のメータの下にあるDIMというボタンは推すと30dB音量が下がりもう一度押すと元に戻る。
うっかり押したまま音量を上げてもう一度押すと凄まじい爆音になる。

注意して欲しいのが、この画面はiPadでの操作なのだけど
専用アプリではなくアメジスト内のPCへ遠隔操作アプリVNCを使ってでの操作になる。
その為、操作感は若干ラグがありややもっさりとしている。
ただ音量などの同期は素早く本体のパネルとiPadでの表示はほぼ同時だ。

また借りてみて気づいてしまったのがiPadのWi-FiはAmethystに接続しないといけない。
Amethystを操作するにはiPadでインターネットに繋ぐことが出来ないようだ。
MacminiとiTunes+Remoteを使って気軽に手軽に楽しもうと思ったら
Amethystの接続中はRemoteが使えないようなのである。
Amethystを家庭用ネットワークに繋いで…という使い方が出来たらと思ったが3日間のレンタルではいまいち不明なままだった。

■試聴

待ちに待ったトリノフの補正をかけた試聴を始める。
小手調べにノラジョーンズをかけてみた。
これがどうだろう、確かに違う。明らかに違うのだが違和感しかない。
ボーカルのモヤモヤ感がとれすっきりといつもよりましましにぬるっとしている。
そこは良い、問題は低域だ。明らかに出過ぎているような感じを受けた。

トリノフ自宅持ち込み連勝中のIさんもこれには表情が曇る。
ここに来て微妙な反応をされたのはうちがはじめただという。

その後数曲、得意曲をかけるのだけど一向に良い反応は出来ない。
あれだけ期待していたしあれだけ推していたのだからこっちとしても申し訳なく焦る。

何か褒めたいような気持ちになるのだけどどうにも欲しいと思わせるような雰囲気、音ではなかった。
一体なぜなのか、測定グラフを見て原因が判明した。

メインシステムでの測定値。上のグラフが補正前下のグラフが補正後だ。

80Hzと130Hzの辺りがばっさりと10dB落ちているけどこれは部屋の特性だとIさんは言う。
また50Hz以下の盛り上がったところはスピーカーの特性でそうなっているらしい。
オプティマイザーはリミッターが設定することができ、±6dB以上は音が変質するので変化させないようになっている。これは詳細設定で変更することが出来る。
そのために補正後のグラフでも補正しきれずに低域の二つがへこんだままだ。

グラフをみて初めて判明したのだけれど、この部屋は楽器で言えばベースの辺りがほとんどでていないようなのである。
しかしながら自分自身ベースの音はあまり得意ではない。
ボーカルが埋もれてしまうのもその要因であるし、
以前使っていたDALIのスピーカーではその低域が出過ぎてしまいどうにも煩くて聴いていられなかった。
また去年の1月に聴いたSystem6の試聴の際でも不得意な低域が出過ぎているせいで簡単に酔ってしまった。

そう、このウッドベースの辺りの音を浴びるとどうにも食道の辺りが揺さぶられ、気分が悪くなってしまうのだ。
もちろん聞き続けなければどうということもないのだが、日常的に聴くような感じではない。

さらにに、この低域が出るようになった途端、煩いのだ。オーディオ的にではなく普通に煩いのだ。
隣の部屋にいても二階へ行ってもスピーカーの音が壁を突き抜けて家全体に響いてしまっていた。
逆に隣の部屋まで響かない音量まで下げてやると今度は非常に物足りない音になる。
音が小さいというよりはバランスが悪いと言った感じでこれなら聞いてない方がマシである。
トリノフを入れて初めてオーディオの音がうるさいと同居人から指摘を受けた。

f特がフラットなのにバランスがおかしいというのも変な話ではあるが…
そこでイコライザーの登場である。

■イコライザー

しかしながらトリノフには自動修正以外にも手動イコライザー機能が使える。
精密に計って折角修正したグラフをまた弄ることになる。

1タップ0.5dB修正することができる。また通常のイコライザーよりもピッチが狭く非常に細かい修正が可能だ。

何度も同じ曲を聴きながら聴けるところまでうまくイコライザーで修正をかけてやるのだがこれがまた非常に難しい。

 

結局元々のグラフの感じに落ち着いた。

下のBypassというボタンでイコライザーのオンオフが瞬時に切り替わり、効果ははっきりと分かるのだけれど、いかせんいじれる幅が大きくいじり過ぎればあっという間に破綻してしまう。
写真で言えばLightroomでの現像作業のようである。
ある程度の知識が必要なようで感覚でのイコライジングはどう頑張っても納得いくような音には持って行けなかった。
なんにしても3日で結果が出せるようなことだとは思わない。

しかしながら、折角オプティマイザーでフラットな特性が得られたのにまたそれを戻すというのはおかしな話で本末転倒だ。

思うに、このイコライジング作業、オーディオマニアがやる作業ではなくどう考えてもスタジオでマスタリングエンジニアがやる作業であると思う。
ハルヒのGod knowsとLost my musicで調整してみたのだけどどう考えてもこれを良い感じで鳴らすのは自分の責任ではない。
などと責任転嫁しつつイコライザーは諦めた。

■トリノフの計測

F特の他にもスピーカーの位置や角度が出てくる。上の画像を見る限りそんなに悪い位置にはセッティングされていないようだ。
これを元にスピーカーをセッティングしてやると完璧な位置へ持って行けるというのだけど、
マイクのちょっとした測定角度で結果が変わるので過信は禁物だ。
やはりこの辺りは地道にメジャーで計っていくのがベストだろう。

高さと距離の座標も出せる。
碁盤の上に載せているせいか基本ポジションの緑よりすこし上に存在している。

 

■プリセット

イコライジングができなくても、トリノフには長年の蓄積データと実績からプロが作ったプリセットが用意されている。

柔【Comfort、Natural、Neutral、Precision、Monitor】硬
左へいくほど柔らかく甘くなり
右へ行くほどシャープにくっきりとした音になる。

評論家先生オススメのPrecisionやMonitorではどうにもきつすぎてバイオリンが蝉が鳴いているような耳障りな印象を受けた。
逆にComfortでは音像感が低下して定位がきちっと定まらなくなり音の境界がかなり曖昧になる。
効けば効くほどNeutralかNaturalがベストだと感じだ。
このプリセットはかなり好みが分かれるところではあるけれど大方どれかに嵌まるらしい。
うちではNaturalが最もバランスがとれ良い音に感じられた。

 

■二日目サブスピーカーでの実験

2日目のAmethyst、どうにもしっくりこないのは、得意曲ばかりを流していたせいで
いままで上手く鳴らずにあまり聴いていなかったような曲をメインに聴いてみた。
主に打ち込みの録音がかなりゆるい曲が多かったと思うのだけど
確かにトリノフが必要だと思わせるような曲も数曲有ったのだけど圧倒的にない方が良いと思える場合が多くあった。

サブに聴いているアッコルドに選手交代する。
ついでに2日目に計ったアッコルドのグラフはこれだ。

同じく130Hzの辺りがへこんでいる。補正後のグラフは綺麗すぎるくらいにフラットになった。

一変して、アッコルドでは期待に答えるかのように良い感じに思えた。
ただ、アッコルドはあくまでサブでかなり適当にセッティングしてあっていつも適当に聴いている。
アッコルドのためにトリノフを入れる気にはなれないし補正するまでもなくいい音なのだ。
好きなのにそれ以上にフォトショで修正するような事は必要ないかなと思う。

 

■3日目返却日

Amethystが割とどうでも良くなってきた頃、出力がXLRとRCA同時に音が出ることに気がつく。
傾向の違うスピーカー二つを同時にならすというおかしさに笑いが出た。
しかしこれ笑えるほどに定位がめちゃくちゃになり音色がおもしろいのだ。

実際導入する場合、困ったことにパワーアンプ二つをつけっぱなしにすることが出来ず
せっかくほぼすべての切り替えがiPadやリモコンでいじれるのが、ここに来ての人力だ。

■Amethystのプリアンプについて

完全にデジタルプリアンプだなと感じる音だ。
そこには思想や工夫は感じられず業務用のプリアンプと言って良い素っ気なさを感じるプリだ。
つまりはオーディオとしての音作りはされておらず部品を組み立てたくらいの出来だ。

プリだけ聴いてこの音が欲しいという人はそうそう居ないような感じで
考えてみてもST2が108万円でAmethystが180万円だから色々と差し引いて70万円分もプリに使われていない。
下にあるLUXMANのC800fと比べるまでもなく質は落ち、プリはおまけ程度に考えた方が良さそうだ。

しかしおまけ程度のプリでもプリスルーできない。
将来性を考えればAmethystという選択はあまりないのかなとIさんも言う。
これならCHのL1入れた方がずっと良いですよと。そりゃそうだ。
でなくてもデビアレの250あたりが良いと思う。

 

■トリノフというメーカー

このトリノフというメーカーはもともとオーディオメーカーといういよりも、ソフトメーカーに近い存在だと言って良い。
ST2でもAmethystでも買うとしたら高いソフトとPCを買うような気持ちでないといけないと思う。
なんにしてもこのトリノフというメーカーは業務用という立ち位置からハイエンドオーディオへはまだ到達できていないと感じる。
本体の筐体やボリュームノブやソフトウェアまでどこまでも悪い感じでの業務用感が出てしまっている。
まだまだ業務用から抜け出せていないのだ。

自室に持ち込んでみてオプティマイザーの必要性が全くと言って感じられなかった。
オーディオショップの試聴室で聴いて買っていたならば返品していたレベルだ。
F社ではトリノフオーディオ初の黒星を決めてしまったのだけど、
他のお宅では新品のST2を開けて持って行くともう手放せないと、即買いするらしい。
ここに来て、ノーヒットノーランならずと言えば良いだろうか。

残念そうにIさんはトリノフを撤収していった?いや、

 

■今回のAmethyst試聴最大の収穫

今回トリノフの夢は砕け散ってしまったけれど、部屋の特性がよく知れたことと
自分の音の好みが数値としてはっきりと分かったことは非常に大きな収穫だと思う。
実を言えば、自分がリビングで日夜オーディオをやっているのが不思議でたまらなかった。

一つに元々映画館やコンサートなどの音響が苦手でオーディオをやっているにもかかわらず
802SDなどのスピーカーで音楽やアニメが楽しめていたこと。
加えて、普通の部屋にもかかわらず近所どころか同居人からの苦情さえも来なかったことがあまりにも不思議でたまらなかった。

もともとヘッドホン上がりのオーディオユーザーであることもそうだけれど、
苦情が来ないその要因を作っていたのが自分のベース嫌い、特に低域の感度の良さだ
そこから、ピアノとボーカルといったシンプルな曲を主に聴く、音楽嗜好があり
アニメだったらロボットやバトルよりも、日常系の穏やかな作品が好きで、

加えて、部屋の特性でその苦手なベースの辺りの低域がばっさりと落ちていて
ばっさりと落ちることで隣の部屋へ音が響きにくくなっており
一つの部屋で十分な音量を確保してもドアを閉めてしまえばテレビの音漏れくらいには静かになってしまっていた。

さらには、上のグラフを見ると超低域がかなり出ているのだがこれがまたおもしろい作用をしていて
ばっさり落ちたベース部分を補ってくれて音楽の楽しさが損なわれない。
ただ疑問に思うだろう、この低域は近所迷惑になるような低域であるのになぜ苦情が来ないのか?

20Hzや40Hzは聞こえはしないものの、音量を上げれば隣の家まで共振してしまうような周波数なのだが
運の良いことに今住んでいるのが新幹線沿いということでこの辺りの住人は新幹線の騒音と揺れを日常的に感じている。
しかしながら意識することはあまりなくそれが普通で、日中にスピーカーの爆音で揺らしてしまったとして苦情を言うような住人はこの辺りには居ない。同居人も自分もそう。

そうこの部屋いやこの家が自分がスピーカーで音楽きく上であまりにも都合が良いのだ。
気持ちよく聴けるのに周りに迷惑にならない絶妙なチューニングが成されていた。
それもすっぽり抜ける低域より上はフラットで良い音だから偶然とは恐ろしい。

これにはIさんもこの部屋リフォームしないでそのまま聴いていた方が良いですよと爆笑気味であった。
逆に専用ルームを作った際にはベースをカットするためにST2が必須になりそうだとも。

もしかするとこの部屋の特性をもっと詳しく調べたら日本でのスピーカーオーディオがもっと活発になるかも知れない。
ただしベースの音はかなり静かであるが。(笑)

結果を書かずともAmethyst、ST2の導入はなかったこととなった。

Amethystの購入費が浮いた分はアイソテックのAQUARIUSの購入資金へと当てられた。
右下の箱がそれだ。

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