理想の最期なんて存在しない。誰もがいずれ死ぬのだけど、建物だって植物だってその日はいつか来る。
ここ数年でもレベルの違うつらさを感じた11月が終わろうとしている。 11月4日最期の見納め会を小さく開いて、11月5日に建物の解体が始まって11月24日にはすっかり建物があった姿もなく更地になった。

17日の土曜日現地へ赴くと、大きなユンボが敷地の中央にどっしりと鎮座して、建物がほぼ無くなって残るは基礎とあの大理石の床だけがあった。
あの家の象徴的な大理石の床、少しの大理石の破片でも持ち帰ろうと思ったのだけど外壁タイルを1枚だけ拾ってそのまま呆然とあたりを見渡した。軽量鉄筋の立派な家もあの大きな重機の前では1週間も経たずに解体できてしまうらしい。鉄骨をねじ切る凄まじい轟き音がこの周辺に鳴り渡ったことを考えるとお隣さんにすこし申し訳ないが致し方ない。

呆然となって当たりを見渡すと、重機によって庭が潰され、庭木のほとんどが切られていることに気がつく。
急いで現場責任者に駆け寄って話を聞くと、取りに来る人がいない限りはそのまま切り倒して撤去してくれと上からの指示があるという。

庭木のほとんどが根元から伐採されて、廃材のように積まれていた。
現場はまるで津波が来た跡の被災地のようで曇り空と数時間前まで激しく降っていた雨と重なって家と庭が津波に流されたみたいだった。

というのも、建物は解体しても庭木や庭石は新しい家で小さな坪庭に使うという話し合いがされていたし、大きすぎて坪庭に入らない分の庭木や庭石も行き場のないものや弱って朽ちそうなものをのぞいては庭木屋さんが引き取ってくれるものだと思っていた。

家に帰るとすぐにF社社長宛にメールを送った。数時間後に返ってきたメールには、確認したとおりの作業が進んでいるとのことだった。
しかし、庭木を伐採するなどということはひとつも約束していないし
全ての木を伐採するにしても新しい庭に木を移設するという話し合いはどうなったのか?いろいろと疑問が湧き出てくる。

翌日になって電話をして店頭で実際に話会いたいと母が言う。
土地の売買や解体工事の契約や段取りについては父と母に任せていたために、自分は不動産屋の担当や解体工事の現場責任者とはすこしも話をしていない。

F社へ事情を聞きに行く

なぜそうなったのか、
うちが家の設計を依頼してF社と下請けの工務店さらにその下の造園屋さらにさらにその下請けの解体業者と業者さんが列なっているのだけど、その間には契約書や誓約書のようなものが存在しなかった。

10月21日某所で、F社の社長と工務店の社長二人があの家の玄関先で立ち話をしている中で
F社社長「庭の木はどうしますか?」
父「全部取らないと(家の中のことを考えながら)ダメじゃないですかね…?」
F社社長「分かりました。」
とそれだけで解体工事の内容が決まってしまっていたらしく、母も自分もそして父も庭が全て撤去されるなんてことは1mmも考えて居なかったし伝えていなかった。
なにより、解体工事の日時が決まったところで契約内容なら詳細な工事内容の契約書のようなものに捺印すると思っていた。
その間に庭の木や石をどれを使ってどれを残すのか決める作業があるのだと思ってたら、いつの間にか解体されてしまっていた。

どうやら、下町のお店ならではの古いやり方で、そういった契約書などは発行していないし、いままでも口頭での約束でいろいろな事業を済ませてきたという。
さすがにそれはないと言う母はF社で悲鳴を上げながら社長とやり取りをして結局、社長側が謝罪したという。

その翌日

庭木屋と現地で待ち合わせて、少しだけ残った石と木を救出しに行く。
敷地内に巨大なユンボが入り廃材が庭に置かれたのだけど敷地が住宅とは思えないほどに広かったために、端の方の庭木と石がそのまま残されていた。
解体現場の責任者曰く、今日中に庭木を全て撤去してあと5日ほどで更地にして受け渡しを行うという。
本当にギリギリだった。あと一日現場へ行くの遅かったら庭木が全て伐採されていた。

まさに職人という感じの爺さんが手際よく三つの石と四つの木を選んでピンクのリボンを結ぶ。とても腕の立つ庭師だという。
本音を言えば解体工事が始まる前から庭木の選定作業をみんなでやりたかった。この庭の最期の様子を確かめながら。

敷地が広いから、逆に庭は建物の解体工事が終わってから必要な庭木を救出して更地にするのかと思いきや、一度に土地にある全てのものを解体して撤去するという。F社社長曰く、その方が早く終わるので人件費も重機の使用量も安くすむのだという。
加えてF社ではいろいろな諸経費や人件費を削減しているのでかなり安く出来るのだという。

今一度確認したいのだけど、我々はオーディオショップへ家の建築を依頼している。
一般的なハウスメーカーや工務店とは話が違うのだ。
それははじめから分かっていたし、オーディオショップとつき合っていく中で数百万円のアンプやらスピーカーを何の書類にサインすることもなく口約束で貸したり、一千万円のスピーカーだって口約束で発注して、支払い日時も口約束で結構曖昧だ。
5年ほどそうやってF社でオーディオを売り買いしてきたのは自分だけで家族はしらない。
オーディオショップという特殊性に気づかずに作業を進めるのがどれほど危ないことだったか強く感じた。

さらにその1週間後

家も庭も塀すらも全て無くなってきれいな更地になっていた。
少し前に半分売る土地の境界線を測量して境界をしめすプレートが奥の土留めに貼ってあった。
建物を全て撤去した跡の更地には、綺麗な山土が盛られていたことが分かった。チョコケーキのような綺麗な色をしている。
通常、盛土には川砂が使われるがこの家には高品質な真砂土で充填されていた。
真砂土は花崗岩が風化して出来たものであり川砂よりも粒子がランダムでしまりが良い。また水によって自然に締まる良い土だ。
瓦礫も綺麗に撤去されあとはここに家を建てるんだと意気込むばかりのはずだった。

しかしながら、土地をよく見ると家を建ててるはずの土地の土が削られていることに気づく。
もともと平均で65cmも持ってあって高いところでは90cmの盛土がされていた土地がなぜか25cmまで下がっていた。
あっ…またやっちまったのか…。

土地全体が奥から25cm、15cm、-10cmに整地されていた。
片側の土地はハウスメーカーが買い取っておりもうすでに家が2軒建つことが決定しているその為にこの段差をつけてから土地の引き渡しを行うことになっていた。しかしそれがなぜかうちの土地まで整地され、土が捨てられていた。

いや捨てられていたのだがかろうじて土地の端に盛られてそのあと捨てに行くところだった。急いで現場監督へ電話してその場で捨てるはず土を家の土地へ返して貰った。
廃土のよていだった土は瓦礫がかなり入っておりガラ取りをまた行わないと行けない。
解体業者さんは非常にいい人で仕事は素早く丁寧に行ってくれたのだけど上からの指示がうまく通らずその早い仕事が仇になっていつにまにか違う結果を見てはよろよろとたじろいだ。

最終的に家を建てる土地の盛り土は45cmでもともと建っていた家よりも20cmほど低い土地になった。
また土を戻すにもお金がかかりそうだし50年ほど綺麗に固まった土地の土が掘り返されたこともなによりこうして2度目の手違いがあったこと…

土木系の仕事をしてきた父は怒り、母はまた手違いがあったと困惑して家の中にどよんとした黒い空気が漂い始めた。
何もなくなってしまった土地がまだ受け止めきれないまま、酷く落ち込んだ母を見て、切られてしまった庭木や捨てられた庭石のことを思い出すとどうにも心中穏やかにはいられなかった。

あとで工務店へ電話を入れると、取った土は全部返してくれるとのことだったけれど、F社社長と相談してその現状維持となった。

というのも、10尺天井のオーディオルームが2Fにある片流れ屋根の建物は高さがかなりあり建物の威圧感が凄まじい。現在住んでいるうちの近くにそんなような家が建っていたが、隣の家を見下ろすようで本当に威圧感がある。
また、盛土を盛れば盛るほど道路から玄関までの階段が多くなり車いすや大きな荷物の搬入が難しくなる。

加えて駐車場スペース用にもう10cm掘ったり、柱状改良を行うとそのコンクリート柱の分だけ土が上に上がってくる。さらに家の基礎はベタ基礎なのでかなりの量の土を掘る必要があり、二つの坪庭用に土を使ったとしても廃土が十分出てくるという。

 こうしてお隣よりおおよそ1.5mは高い建物が出来る予定となった。

11月前に工程表を建設会社に郵送して貰うべきだったと激しく後悔した。それでもとりあえずなるようになったので一安心だ。

そうしているうちに11月26日、7回目の話し合いが行われた。
当日の直前まで行けるような体調ではなかったがロキソニンで何とか色々な痛みを止めて意を決してF社へ赴いた。
先週父と母がどれだけ激しい言い合いをしたのかは想像したくはないのだけど、事務の方が思わず泣いてしまうほどにその場は緊迫していたという。
しかしそんなこともなかったかのようにF社はいつも通りで社長もいつものように心穏やかに迎い入れてくれた。
あいさつ代わりに軽く謝辞が入ったあとに盛り土の確認とその土留めのブロック塀とワイヤーフェンスの工事の確認。
それぞれ誰がどの業者に連絡を入れるのか綿密に確認しながら話し合いは、ゆるやかに進んでいった。

それまでの激しい緊張はどこへいったのやら和気藹々と話は進み、家の図面も良いところまで煮詰まっていた。
これから構造計算をして細かな柱やかい壁の位置が決められていく。3月には本格的に家の建築が始まるのだ。

うちの家族の生活様式や性格が大体分かって、こちらもF社というところが社長という人がどういう人なのか確認しながら作業は進む。
家を建てるというのはその人の生き方や思想がもろに反映されるところだ。それは施主側だけでなく受ける側もまたそうなのである。

 現場へ行ってこまめに確認しに行くのはもはや施主の義務だ。
人という別々の小さい器にいる以上、意見の食い違いやすれ違いは避けられない。しかしそれはどちらが悪いとか責任を取るとかではなく、お互い様の精神で勧めていかなければなにも物事は進んでいかないと思う。
なにより家を建てるというのはこなさなければ行けない行程はあまりにも多い。小さなことで悩んで争っている暇はないのだ。

自分は体力が著しく無く全てのことに関わり確認するのは難しいけれど、だからこそF社というすこし特殊なところへ家を依頼した。
普通のハウスメーカーよりもずっと融通が利くはずだし広告費などが一切無い分コストも安くなる。
自分の体調のことも受け入れながらうまい具合に妥協できたらと思う。

しかしF社というところは本当に家庭的な小さな店なのだ。
そして社長の懐の深さがこの会社を支えているのかと感じた。
更地を見て完全に失敗してしまったかのように思えたこの家を建てるという大きな作業も、ただ一つの試練でありちょっとしたイベントくらいに思えてきたのだった。

きっと最高の家が建つことを夢見て今日もまたブログを綴る。

つづく。

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